大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

仙台地方裁判所 昭和44年(ワ)56号 判決

主文

原告の本位的請求を却下する。

仙台地方裁判所昭和四〇年(ケ)第七一号不動産競売事件における交付金受領を条件として、被告株式会社振興相互銀行は原告に対し、金八七八万二、四七七円およびこれに対する右交付金受領の日の翌日から完済に至るまで年五分の割合による金員を、被告今野皞は原告に対し、金一二四万四、二一三円およびこれに対する右交付金受領の日の翌日から完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

原告のその余の請求を棄却する。

訴訟費用はこれを一〇分し、その九を被告株式会社振興相互銀行の負担とし、その一を被告今野皞の負担とする。

事実

原告訴訟代理人は本位的請求として、「仙台地方裁判所昭和四〇年(ケ)第七一号不動産競売事件につき、同裁判所が作成した交付表中原告に対する交付額を金一、二〇〇万円に、被告株式会社振興相互銀行に対する交付額を金四、八六四万九、〇〇〇円に被告今野皞に対する交付額を金三三六万七、一九八円にそれぞれ変更する。訴訟費用は被告らの負担とする」との判決を求め、予備的請求として、「被告株式会社振興相互銀行は原告に対し金八七八万二、四七七円、被告今野皞は原告に対し金一二四万五、〇〇九円および右各金員に対する仙台地方裁判所昭和四〇年(ケ)第七一号不動産競売事件による交付金受領の日の翌日から完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。訴訟費用は被告らの負担とする」との判決ならびに仮執行の宣言を求め、その請求の原因として、

一、原告は昭和三九年九月九日、訴外堀鉄工業株式会社から、別紙目録記載の不動産を買い受け、その所有権を取得した。

二、ところが、右不動産には訴外堀鉄工業株式会社を債務者とし、被告銀行を債権者とする根抵当権(仙台法務局昭和三九年一月一八日受付第一五四〇号)、および被告今野を債権者とする抵当権(同法務局昭和三九年九月八日受付第三六五〇三号)が設定されていたため、昭和四〇年六月二一日、右不動産に対して、抵当権の実行にもとづく競売手続が開始され(仙台地方裁判所昭和四〇年(ケ)第七一号事件)、昭和四三年九月九日訴外株式会社三浦商会および訴外三浦矢八郎に対し代金六、四八〇万円で競落許可決定がなされた。

三、右不動産は原告が取得した当時農地であつたので、原告はこれを宅地として造成する目的で、訴外有限会社扇建設に請負わせて昭和三九年九月一〇日から昭和四〇年一月頃まで埋立工事をなしその請負代金として金一、二〇〇万円を支払つた。

四、よつて原告は、第二項記載の競落代金六、四八〇万円から前項記載の有益費用金一、二〇〇万円の償還を受けるため、昭和四三年一一月二二日仙台地方裁判所に対し、この配当を申し立てた。

ところが、原告の右交付請求は競落期日後であつたために、交付表に計上されるに至らず、昭和四四年一月二一日別表第一の如き交付表が作成された。そして原告が異議を述べた金一、二〇〇万円については交付が留保され、残余の金員についてのみ被告らに交付された。

五、しかしながら、原告が埋立工事のためなした前記支出金一、二〇〇万円は明らかに有益費であつて、その価値が現存し、前記競売手続は原告が価値を付加した現況においてなされたものであるから、右有益費は原告において競落代金から優先的に支払を受くべき性質のものである。従つて競落代金の交付表は別表第二のとおりに作成されるべきであり、原告は金一、二〇〇万円、被告銀行は金四、八六四万九、〇〇〇円、被告今野は金三三六万七、一九八円をそれぞれ交付されるべきである。よつて、原告は被告らに対し、交付表の変更を求めるため本訴本位的請求に及んだ次第である。

六、仮に原告の本位的請求が認められないとしても、予備的請求として、原告の配当異議が認められず、被告らが現実に別表第一の如く交付を受けた場合は、もともと原告が競落代金から有益費の償還を受け得るのであるから、被告らの別表第一の交付金額と別表第二の交付金額との差額、すなわち被告銀行は金八七八万二、四七七円、被告今野は金一二四万五、〇〇九円をそれぞれ法律上の原因なくして不当に利得し、原告は同額の損失を受けたのであるから、原告は被告らが別表第一の交付表の交付金を受領したことを条件として、被告銀行に対し右不当利得金八七八万二、四七七円、被告今野に対し右不当利得金一二四万五、〇〇九円および右各金員に対する交付金受領日の翌日から完済に至るまで民法所定年五分の割合による法定利息の支払を求める。

と述べた。

被告株式会社振興相互銀行訴訟代理人および被告今野皞は、本案前の抗弁として、「原告の本位的請求を却下する」との判決を求め、その理由として、

一、抵当権の実行にもとづく不動産競売手続には、民事訴訟法の配当に関する規定が準用されず、従つて配当表に対する異議の訴はこれを提起し得ないものである。

二、競売法にもとずく不動産競売手続において、登記を経ない債権者が競落代金の交付を請求し得るのは競売期日までであると解すべきところ、原告は競売期日までに交付請求をしなかつたのであるから、仮に抵当権の実行による不動産競売手続について配当表に対する異議の訴が認められるとしても、原告はその当事者適格を有しない。

三、競売不動産の第三取得者は、いわゆる強制競売の場合においても、配当表に対する異議の訴の当事者適格を有しないのであるから、仮にいわゆる任意競売について配当表に対する異議の訴が認められるとしても、原告はその当事者適格を有しない。よつて、原告の本位的請求はこれを却下すべきである。

と述べ、

本案について「原告の請求はいずれも棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」

との判決を求め、答弁として、

一、請求原因第一項の事実中、原告が別紙目録記載の不動産を買い受けた年月日は不知。その余の事実は認める。

二、同第二項の事実は認める。

三、同第三項の事実中、右不動産は原告が取得した当時農地であつたとの事実は否認し、その余の事実は不知。

四、同第四項の事実中、原告の交付請求が競落期日後であつた事実および仙台地方裁判所が別表第一の如き交付表を作成し、金一、二〇〇万円については交付が留保され、残余の金員についてのみ被告らに交付された事実は認めるが、その余の事実は不知。

五、同第五項、第六項の事実はいずれも否認する。

と述べた。

証拠(省略)

理由

第一  被告らの本案前の抗弁について判断する。

一、抵当権の実行による不動産競売手続において、配当表(その名称は交付表でもよい)が作成された場合、異議のある債権者は他の債権者に対し、自己が配当を受くべき金額を主張して、配当表に対する異議の訴訟を提起しうるものと解するを相当とする。けだし、抵当権の実行による不動産競売手続において、配当期日(その名称は交付期日でもよい)に配当表が作成され、配当表に従つて配当がなされるという手続がとられる場合においては、配当表に異議のある債権者が配当表に対する異議の訴を提起しうると解しても何ら競売法の精神に反するものとは認め難く、かつ異議のある債権者の不服方法を配当手続外の不当利得返還請求だけに限定すべき理由はないからである。

二、そして、競売不動産の第三取得者が民法第三九一条により費用償還請求をする場合、右第三取得者は競落期日の終りに至るまでに配当要求をなし、かつ配当期日に出頭して異議を述べた場合でなければ、配当表に対する異議の訴を提起し得ないと解するのが強制執行における配当異議の訴に関する規定に照らし相当である。ところで原告が仙台地方裁判所昭和四〇年(ケ)第七一号不動産競売事件の競落期日の終りに至るまでに費用償還請求権につき配当要求をしなかつたことは原告の自認するところであるから、以上述べたところにより、原告は当事者適格を欠き、原告の本位的請求は不適法として却下すべきである。

第二  次に、原告の予備的請求である不当利得返還請求について判断する。

一、右に述べたとおり、抵当権の実行による不動産競売手続においても配当表に対する異議の訴はこれを提起しうると解するのが相当であるが、かといつて右手続における配当表の作成ないしは配当異議訴訟の判決が実体法上の債権の存否を確定するものではないから、競落代金より配当を受くべき実体上の権利を有する者が右配当を受くる権利がないにもかかわらず配当を受けた者に対し、民法第七〇三条の規定により不当利得返還の請求をすることはなんら妨げないと解すべきである。

二、原告が訴外堀鉄工業株式会社から別紙目録記載の不動産を買い受け所有していたところ、右不動産には訴外堀鉄工業株式会社を債務者とし、被告銀行を債権者とする根抵当権(仙台法務局昭和三九年一月一八日受付第一五四〇号)および被告今野を債権者とする抵当権(同法務局昭和三九年九月八日受付第三六五〇三号)が設定されていたため、昭和四〇年六月二一日右不動産に対して抵当権の実行による競売手続が開始され(仙台地方裁判所昭和四〇年(ケ)第七一号事件)、昭和四三年九月九日訴外株式会社三浦商会および訴外三浦矢八郎に対し代金六、四八〇万円で競落許可決定がなされ、昭和四四年一月二一日別表第一の如き交付表が作成された事実は当事者間に争いがない。

三、証人志賀豊、早坂褜蔵の各証言、被告今野皞本人尋問の結果および証人志賀豊の証言により真正に成立したものと認められる甲第一ないし第六号証を総合すると、原告は昭和三九年九月訴外堀鉄工業株式会社から別紙目録記載の不動産の所有権を取得したこと、原告は、当時右不動産は農地であつたため宅地に造成する目的で、訴外有限会社扇建設に請負わせて埋立工事をしたこと、訴外有限会社扇建設は同年一二月ないし昭和四〇年一月頃までに右工事を完成し、原告は右訴外会社に対し請負代金として合計一、二〇〇万円を支払つたことがそれぞれ認められ、右認定をくつがえすに足りる証拠はない。

従つて、原告は、右不動産につき金一、二〇〇万円の有益費を支出したものであるところ、特に反証がないから、右価格の増加は現存するものと認められる。よつて原告は、右不動産の競売代金から優先的に金一、二〇〇万円の償還を受くべき権利があることが明らかである。

四、以上によれば、右不動産の競落代金六、四八〇万円から競売手続費用金七八万三、八〇二円を差引いた金六、四〇一万六、一九八円は別表第三の交付表のとおり、原告に金一、二〇〇万円、被告銀行に金四、八六四万八、二〇四円、被告今野に金三三六万七、九九四円をそれぞれ交付すべきものである。従つて、被告らが別表第一の如く交付を受けた場合、被告らは、別表第一の交付金額と別表第三の交付金額との差額、すなわち、被告銀行については金八七八万三、二七三円、被告今野については金一二四万四、二一三円を法律上の原因なくして不当に利得し、原告は同額の損失を受けることに帰するから、被告らは原告に対しそれぞれ右各金員を返還すべき義務があるものといわねばならない。

そして、原告は被告銀行に対して金八七八万二、四七七円、被告今野に対して金一二四万五、〇〇九円の返還を請求しているので、原告の右請求は被告銀行については金八七八万二、四七七円、被告今野については金一二四万四、二一三円の限度でこれを認容すべく、また、本件競売手続において原告から異議が申立てられた金一、二〇〇万円については、いまだ交付が留保されていることは当事者間に争いがないから、原告の本訴請求は、右金一、二〇〇万円が別表第一の交付表により現実に交付されたことを条件としてこれを認容すべきである。

五、よつて、原告の本訴請求は、仙台地方裁判所昭和四〇年(ケ)第七一号不動産競売事件における交付金受領を条件として、被告銀行に対し金八七八万二、四七七円被告今野に対し金一二四万四、二一三円および右各金員に対する交付金受領の日の翌日から完済に至るまで、民法所定年五分の割合による法定利息の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し、その余は理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条、第九二条、第九三条第一項但書を適用し、なお、仮執行の宣言の申立については、相当でないからこれを却下することとし、主文のとおり判決する。

別表第一

昭和四〇年(ケ)第七一号

昭和四四年一月二一日

仙台地方裁判所民事部

〈省略〉

別表第二

交付表

〈省略〉

備考 表中(a)(b)は共に元金に対する二年分の損害金、を(c)(d)は二年分の損害を控除した残額を元金額の比率に応じ按分した金額である。

別表第三

交付表

〈省略〉

備考

(1) 表中(イ)は日歩金四銭の割合による昭和四二年一月二二日から昭和四四年一月二一日まで二年間の損害金、(ロ)は日歩金八銭二厘の割合による同期間の損害金

〈省略〉

(2) 表中(ハ)(ニ)は残余の損害金を元金額の比率に応じて按分した金額

(別紙)

目録

仙台市原町苦竹字切替五二番九

一、宅地 三一七・三五m〈sup〉2〈/sup〉(九六坪)

同所五二番一〇

一、宅地 八二・六四m〈sup〉2〈/sup〉(二五坪)

同所五二番一四

一、宅地 一六・五二m〈sup〉2〈/sup〉(五坪)

同市原町南目字二十丁谷地二七一番

一、宅地 五二五・六一m〈sup〉2〈/sup〉(一五九坪)

同所二七五番

一、宅地 一、三八一・八一m〈sup〉2〈/sup〉(四一八坪)

同所二八〇番一

一、宅地 三六〇・三三m〈sup〉2〈/sup〉(一〇九坪)

同所二八四番一

一、宅地 五六五・二八m〈sup〉2〈/sup〉(一七一坪)

同所二八六番一

一、宅地 八七六・〇三m〈sup〉2〈/sup〉(二六五坪)

同所二八七番一

一、宅地 三四七・一〇m〈sup〉2〈/sup〉(一〇五坪)

同所二九一番一

一、宅地 三二七・二七m〈sup〉2〈/sup〉(九九坪)

同所三五九番二

一、宅地 一三五・五三m〈sup〉2〈/sup〉(四一坪)

同所三五九番三

一、宅地 二六・四四m〈sup〉2〈/sup〉(八坪)

同所三六三番一

一、宅地 一九一・七三m〈sup〉2〈/sup〉(五八坪)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例